○○家族

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父と口を聞かなくなって五年以上は経つ。無口な父だったが、日に日に小さくなる父の背中を何となく避けていた。そして実家を出る事になった。リビングに行くと父がグローブを二つ持っていた。

「どうだ?」

父の投げる球は弱々しかった。言いようのない悲しさが心を埋め尽くした。次に父が投げたのは球のような丸い小さなテレビだった。表面に映像が流れている。父の現役時代の映像だ。豪球を投げる父。打者は大胆に空振りをし、九回満塁のピンチをおさえた。俺の子供時代の憧れ。俺はチャンネルを変えた。謝罪会見をする父の姿。俺は歯を食いしばり、丸いテレビを捨てた。そして丸いスマホを父に投げ返した。父はスマホをキャッチし、不器用な手つきで動画を再生した。父は顔色を変えた。

俺はテレビに映ってない父を沢山知っている。

そして父は丸いスマホを強く握り、振りかぶった。あの時の父だ。俺は決して逸らさないようにグローブを構えた。
その他
公開:20/04/29 13:08
更新:20/05/06 12:06
○○家族 たまたま家族と読みます

たらはかに( 日本 )

たらはかに

https://twitter.com/tarahakani
猫ショートショート入選 「猫いちご ・練乳味」
渋谷ショートショート入選 「スク・ラブラブ・ランブル交差点(哀)」とか。

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