丸まる家族

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部活を終えて帰宅するなり、居間でダンゴムシのように丸くなった父を見つけた。
やれやれ。また夫婦喧嘩か。
父は固く殻を閉ざして母の暴言と暴力に耐えていた。
「今度は何したの?」
僕が丸まる父に小声で話しかけると、固い殻の奥から「トイレの蓋を閉め忘れて」と申し訳なさそうな声が響いた。
人柄が丸く優しい父は母に何も言い返さない。これが父なりの愛情表現なのだ。
台所から目を三角にした母が戻ってきた。
「何度言えばわかるのよ!」
丸い卵も切りようで四角。角の立つ言い方を変えれば父が丸まることもないのに。
母が父を蹴り飛ばすと、コロコロと転がった父は壁にぶつかって戻ってきた。
ゼェゼェと息を切らした母がようやく僕に気づいて、「洗濯物出しなさい!」と怒鳴った。
流れ玉に当たってはたまらない。
「父さん、頑張って」
「悪いな」
僕はスーパーボールのように体を丸めて、テーンテーンと跳ねながら脱衣所へ逃げた。
ファンタジー
公開:20/04/29 23:31

のりてるぴか( ちばけん )

月の音色リスナーです。
ようやく300作に到達しました。ここまで続けられたのは、田丸先生と、大原さやかさんと、ここで出会えた皆さんのおかげです。月の文学館は通算24回採用。これからも楽しいお話を作っていきます。皆さんよろしくお願いします。

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