くぼめたてのひら

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若葉を揺らす風が汗の流れる頬に気持ちよかった。
あこがれていた熊野古道。もうすぐ写真でもよく見る苔むした石の階段だ。
「のどが渇いたなあ」
ひとりつぶやいたが、あたりはすぐ静まり返った。そのとき、あまり遠くないところから水の落ちる音が聴こえだした。
「こんなところに」
岩の隙間に突き刺した竹筒の先から流れ落ちる清水を、わたしはてのひらをくぼめて受けた。
「あぁ!冷たい!」
ひと息ついて、登ってきた道をふり返ると里山の谷間に連なる棚田が見えた。それはわたしのくぼめたてのひらに似ていた。
その他
公開:20/04/28 16:48
更新:20/04/28 16:49

ひだまりスケッチ

2020年4月24日第1作(公開)が誕生しました。
超ショートショートが、今まで届かなかった世界に連れて行ってくれます。
 

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