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外を走る騒がしい救急車と一緒にドアベルの鳴る音が聞こえ、若い女性客が入店した。
客は入店してからずっとニコニコしていて、相当機嫌が良さそうだった。
カウンター席に座ってジャックローズを注文し、俺がシェイカーを振っている間もずっと笑顔を保って、こっちを見ている。

整っていて綺麗な顔立ちだが、その顔を見るだけで何故か手が震えてしまった。
本能が直接俺に警告している気がする。

「随分ご機嫌のようですね」

俺は出来上がった赤いカクテルをグラスに注ぎ、思い切って声を掛けてみた。

「はい、実はずっと前から欲しかった物が今日やっと手に入るんです」
「そうでしたか。ちなみに、どんな物かお尋ねしても?」

その瞬間、客の口が横に大きく裂けて「この星です」と答えた。
服の袖から赤く染まった触手がゆっくり出てきて、グラスに巻きついている。
店の外から、けたたましい警報のサイレンが聞こえてきた。
SF
公開:20/04/28 16:32
カクテル バー

泉 千緒(イズミ チオ)

私は元読書嫌いの人間です。
今まで本は学校の教科書や、就職に役立つかもしれないと思った自己啓発系の本を読むという、全然楽しくない読書でした。
小説を読む内に面白くなり、自分でも書いてみたくなりました。
よろしくお願いします。


 

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