ゆずれないものがそこにある

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ワープ航法による恒星間航行を個人所有の船で楽しめるようになったのは四千年前。はるばる八万光年を旅してようやく太陽系に入ると赤茶けた惑星が見えた。
地球に来るのは六十年振りだ。これほど頻繁に訪れているマニアは私ぐらいのものだろう。
途中、宇宙空間を漂う岩石から純度の高いペリドットを採取し、大気圏に突入した。
無事いつものスポットに着陸。この星の生物が絶滅して七千年。水も植物も何もない今の地球に用はない。すぐさま私は装置を起動して過去へ遡った。時空間移動の光の束が収まると、船の外には緑の大地が広がっていた。
私は船を隠して山を降り、馴染みの店でペリドットを現金に交換した。それからバスと電車と飛行機とモノレールと地下鉄を乗り継いで、目的地にたどり着く。
「らっしゃーい」
威勢のいい掛け声とニンニクの香りが私を出迎えた。
「ニンニクヤサイマシマシデー」

どんなに遠くても、譲れない味がここにある。
SF
公開:20/04/29 00:52

のりてるぴか( ちばけん )

月の音色リスナーです。
ようやく300作に到達しました。ここまで続けられたのは、田丸先生と、大原さやかさんと、ここで出会えた皆さんのおかげです。月の文学館は通算24回採用。これからも楽しいお話を作っていきます。皆さんよろしくお願いします。

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