飛行船と

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太陽は圧倒的だった。僕たちは浜辺を長いあいだ散歩した。絶え間ない潮騒。夥しい積雲。
僕は無言で彼の話を聞く。彼はずっと喋りつづけた。僕たちは同じ歩幅で浜辺に足跡をつけていった。
彼はAIエージェントである。僕と同じ体格。顔はマネキン風で僕と同じ声で喋る。僕のことを何でも知っている。モールで子供とふざけてワゴンを走らせたこと。直近の投資案件のこと。親友の外科手術のこと。今朝の紅茶のこと。

彼とはいつも一緒だ。何でも教えてくれる良い話し相手。仕事では同席して代わりに喋ってくれるので便利だ。このごろでは相手もエージェントを連れている。エージェント同士で用件を済ませることもある。
岬の真上に飛行船が静止している。僕たちは立ち止まって飛行船を見上げた。銀色の胴体。
僕はなぜか理由もなく標本箱の蝶を思い浮かべたが、彼に言おうとしてやめた。彼に何でもインプットするのはよくないような気がしたから。
その他
公開:20/04/28 10:21

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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