湯気サナギ

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1ヶ月間、湯気サナギと寝食を共にした甲斐があった。湯気サナギが見えていないように振る舞う生活は肩が凝る。もしも僕に見えてると分かれば湯気サナギはすぐに姿を消してしまうからだ。

ちょうど半年前のこと、SNSに流れてきた「湯気サナギ譲ります」という素っ気ないメッセージ。
迷うことなく僕はすぐに連絡を取った。

「まだ、湯気サナギはありますか?」

運良く僕は湯気サナギを手に入れることが出来たのだ。

そして今日、湯気サナギは大好物の湯豆腐を3丁ほどペロリと食べるとその鍋から上がる湯気を梯子のようにスルスル登り、天井で次第に錆色に変化した。完全な湯気サナギになった。そして、僕に聞いた「君は何が欲しくて何を手放すの?」

僕は自分が欲しい幸福と手放す幸福を物々交換した。
湯気サナギは「いいね」と言って、錆色の身体をギラギラ光らせてみせた。
その他
公開:20/04/28 06:36
更新:20/04/28 08:19

子どもの頃、家にあった海外の絵本の匂いが嫌いで本を読まずに生きてきました。
今もそんなに読みませんが、本は好きになりました。

コメントいただけたら喜びます。
よろしくお願いします。

 

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