狂言家族

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「かくなる上は、わたくしめが責任をとって引き取らせていただきます」と太郎冠者、手にした高級な壺を離そうとしません。
「いやいや兄者、わしこそこのような傷を付けてしまいまして」と次郎冠者、太郎冠者の手から壺をもぎ取ろうとします。
「やいやい」
「なんのなんの」
と二人とも譲りません。見かねた主人が間に入ります。
「見たところ大した傷ではありませんし、そう大事になさいませんでも」
「とんでもございません。見とれているうちに、ついこのような傷を付けてしまうとは、まことに一生の不覚でございます」
「なになに、弟のしでかした不始末はこの兄の責任。どうかわたくしめに」
「横からとはズルいぞ」
「何を、こいつ」
と争う二人は往来に飛び出す勢い。主人が頭を抱えておりますと、いつしか二人の姿はどこへやら。壺もろともに消え失せました。
「あっやられた!」慌てて二人の後を追う主人。
「やるまいぞ、やるまいぞ」
その他
公開:20/04/27 23:07

ToshijiKawagoe( 北海道 )

・『SFマガジン』 2011年10月号「リーダーズ・ストーリィ」 掲載
・『公募ガイド』第22回小説の虎の穴、佳作
・ 樹立社ショートショートコンテスト2012、5等星
・ 第157回コバルト短編小説新人賞、もう一歩の作品
など、SF、ミステリ、童話、純文学など分野を問わず、ショートショートから短編、長編にとチャレンジしてきました。
 しばらくご無沙汰していましたが、最近復活しました。

ブログ http://rashi.cocolog-nifty.com/
 

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