おかえりのセリフ

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「ただいま」
私は仕事から帰り、家の奥に向かってそう叫んだ。
勿論、自分でも分かっている。それが返って来るはずのない「ただいま」だと。

私は今年の春、大学を卒業し、東京の会社に就職が決まった。
正直、期待と不安が入り混じり、この先どうなっていくかは分からない。
でも、まあ、何とか乗り切って行けると信じていた。
手始めに東京で住むための物件を探した。
長く住んできた実家を離れ、一人暮らしをするためだ。
ある日、不動産屋で格安の物件を見つけた。
今から振り返って見るとそれが彼女との出会いだったのかもしれない。

「ただいま」
私はいつもの様に家の奥に向かって叫んだ。
だが、その日に限って家の奥から「おかえり」の声が聞こえてきた。
自分以外に誰も住んでいないはずなのに。
よく見るとゆらゆら揺れるものが見える。
私は暗闇を壁伝いに部屋を覗いてみた。
すると白猫がソファーでゴロゴロしていた。
公開:20/04/27 10:26
更新:20/04/27 17:03

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