12
10
大学から電車を降りて帰宅する道すがら、商店街から住宅街へのグラデーションが始まるあたりに、Y字路があった。
アパートは右側の道を入って、簡易郵便局のある角を右へ曲がったところにある。だから私は、学校へ通っていた4年間、そのY字路の左の道へ一度も踏み込んだことはなかった。ということに、地元へ戻ってからもう10年以上も経った今朝、はた、と気づいてしまった。
しかし、そんなことあり得るだろうか?
専ら散歩が趣味で、小、中学校までのあらゆる道筋を、なんなら猫の道みたいな畑の間にまで入り込んで踏破してきたこの私が、一人暮らしの大学生という自由を謳歌できる四年間、何の冒険心も好奇心も頭をもたげることのないまま、あのY字路の右側にしか立ち入らず、むしろ左側の道を忘れてしまおうとさえしていたなんて……
そして今、私はなぜストリートビューであのY字路が消滅していることを知って、安心したのだろうか。
アパートは右側の道を入って、簡易郵便局のある角を右へ曲がったところにある。だから私は、学校へ通っていた4年間、そのY字路の左の道へ一度も踏み込んだことはなかった。ということに、地元へ戻ってからもう10年以上も経った今朝、はた、と気づいてしまった。
しかし、そんなことあり得るだろうか?
専ら散歩が趣味で、小、中学校までのあらゆる道筋を、なんなら猫の道みたいな畑の間にまで入り込んで踏破してきたこの私が、一人暮らしの大学生という自由を謳歌できる四年間、何の冒険心も好奇心も頭をもたげることのないまま、あのY字路の右側にしか立ち入らず、むしろ左側の道を忘れてしまおうとさえしていたなんて……
そして今、私はなぜストリートビューであのY字路が消滅していることを知って、安心したのだろうか。
その他
公開:20/04/26 09:22
星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。
ログインするとコメントを投稿できます