4度目の魔法

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「あなたのお父さんはね、偉大な魔法使いだったのよ」

ある日唐突に、母が語り出した。一体何を言い出すのかと思いながらも、普段あまり冗談を言わない母の言葉が興味深く、耳を傾ける。今まで父は3度魔法を使ったらしい。

「1度目は青い空、フワフワの雲の上を一緒に散歩したわ。どこまでも白と青の層が続いて、まるで自分が空に溶けていくみたいだった。2度目は、海の向こうの地平線沿いに広がる夜景を、まるで数珠玉みたいにくるっと輪にして、ネックレスにしてくれた。3度目は夜空に輝く星をひとつまみして、指輪に込めてプロポーズしてくれたの」

信じられないといった顔の私を見て、母は笑い、更に続ける。

「お父さんキザよねぇ。あ、もう1つあった、しかも一番嬉しかったやつ」

「え、何?」

母は私の目をじっと見て、優しく微笑んだ。瞬間、意味が分かった私は、顔を真っ赤にして俯いた。

お母さん、あなたも十分キザだよ。
ファンタジー
公開:20/04/26 19:39

chaite( 日本、ヨーロッパ )

田丸雅智さんのショートショートに感銘を受けて自分でも書き始めました。色んな方の作品を読めるのを楽しみにしています。

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