あの頃の家族

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「鯉のぼり」
小僧が指を突き上げる。
たまに散歩へ出かけると、テレビと風景のギャップに正解を見失う。
「うちもそろそろ兜出さなきゃ」
妻が視線を送る。いつしか俺の役割とされている。マスクの下で唇をとがらせた。
どんな騒ぎに見舞われようと日常は流れ続けた。
「お昼どうする?」
「肉」
「焼き肉行っちゃう?」
「やってないでしょう」
やってないから言ったのだ。しかし、どうやら牛丼チェーンは閉まらない。小僧の目が輝く。俺たちは目を合わせた。プラゴミも気になるけれど、ここはテイクアウトが大人らしいかしら。妻はきっとマスクの下で唇をアヒルにしている。
台所で丼に移してレンジでチン。小僧は一人前の並盛りを申し訳なさそう頬張った。
あの頃な。何の補償もなく自粛を強いられた晩春の思い出。
その他
公開:20/04/25 16:21
更新:20/04/26 13:15

puzzzle( 神奈川19区 )

作文とロックンロールが好きです。
https://twitter.com/9en_T

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