キリンの街で

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動画配信されている古本屋の店内をスマホで眺めていると、アイドルだった頃の母親の写真集を棚に見つけた。850円。それが高いのか安いのかはわからない。
広大なサバンナに独り立つ若き母は褐色の肌に青緑のアイラインが挑発的で、フェラーリみたいな赤い水着でライフルを構えている。銃口の先には木の葉を食むキリンの親子。哲学書。歴史書。小説。戯曲。静寂の店内に一発の乾いた銃声。写真の中の親キリンが倒れる。嘘だろ。俺はその写真集をネット決済した。
「キリン撃ったことある?」
俺は母親に電話をかけた。
「藪から棒ね」
「水着でさ、ライフル持って」
「元気なの?」
「撃ってないよな」
「何を」
「キリン」
「今どこにいるの。ちゃんと食べてるの」
「撃ってないよな」
そこで通信は遮断され、立てこもる大統領府は撃ちこまれた催涙弾で視界を奪われていった。俺はライフルを構える。夢なら醒めろ。キリンを撃ちたくはないんだ。
公開:20/04/22 10:28

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