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「満月弁当一つください」
私は汽車に乗る前に弁当を購入した。丸い弁当箱の中、白米の上に海苔、海苔の上に卵そぼろが満ちる、まるで空に浮かぶ満月の様な名物駅弁。
シンプルながら素材の味が引き立ち、老若男女問わず愛される弁当。
列車に乗り、席に座ると早速蓋を開け、食べ始める。
ふわふわのごはん。しっとりした海苔。ふわふわの卵。
海苔の上に卵そぼろを残せば、まるで夜空に輝く星に見えてくる。箸が止まらない。

弁当を食べ終え、近くに座る老人を見た。
何も入っていない満月弁当の中を箸だけ動かしてはそれを口に運び、美味しそうにしていた。
「何やっているんですか?」
「何って、新月弁当を食べているんですよ」
「新月弁当?」
「はい。これは目に見えないお弁当なんです」
そんなものもあるのか…次の駅で購入しよう。
「嘘ですけどね♪」
「嘘かい!」
老人の一言に思わずツッコんだ。
その演技に私は一杯食わされた。
公開:20/04/23 18:44

幸運な野良猫

元・パンスト和尚。2019年7月9日。試しに名前変更。
元・魔法動物フィジカルパンダ。2020年3月21日。話の流れで名前変更。
元・どんぐり三等兵。2021年2月22日。猫の日にちなんで名前変更。

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