ハンコと人格デジタルデータ化

全世界で伝染病が猛威を振るい、世界の人口は1億人を切るまでになった。
ウイルスの変異が速いため有効なワクチン製造は難しく、また特効薬もない状況ではあと1年で人類は絶滅すると予測されていた。
そこで科学者はウイルスの撲滅をあきらめ、人間の肉体はコールドスリープで保存、記憶や人格はデジタルデータに変換して意識だけの存在とすることで人類の存続を目指し、そして実現した。

「意識だけになったけど前とあまり変わらないよな」
会社で仕事をする田中はその違いの無さに拍子抜けしていた。
そのとき上司から着信が。
「田中君、前に出してもらった稟議書なんだけど、君のハンコが抜けてるって部長から連絡があってね」
「じゃあサインでいいですか」
「それがダメだって言うんだ。人格データ化以前の書類だからハンコがどうしても必要らしい。すまんがコールドスリープから目ざめて、会社までハンコを押しに行ってもらえないか」