東を向く家族

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前を向くのが大事だというのが父の口癖だった。
両親に連れられ歩く幼い僕は、道で躓いても公園で転んでも、いつもすっくと立ち上がると進行方向を見つめた。
お蔭で初めてのお遊戯会や小学校の受験も、自分なりに努力を重ね無事乗り越えることができた。
だが大学の受験を迎える今年、父が不慮の事故で意識不明になり僕は初めて前を向くことが出来なくなった。
涙が止め処なく滴るので、下しか向くことができないのだ。そしてついに父は、虹の向こう側へ行ってしまった。
初七日が過ぎても心に空いた穴の埋まる気配は無く、母と共に夜毎泣き崩れていたら夢に父が現れた。
「勇介、よく考えてごらん。前を向くという本当の意味を」
夜明け前、目を覚ました僕がカーテンを開けると、東から昇る朝日がゆっくりと空を染めはじめた。
そうだ、前を向くということは未来に目を向けるということだ。

それ以来落ち込むと、僕は母と共に東の空を見上げる。
その他
公開:20/04/21 00:06
更新:20/05/06 04:35

ことのは もも。( 日本 関東 )

日本語が好き♡
18歳の頃から時々文章を書いています。
短い物語が好きです。
どれかひとつでも誰かの心に届きます様に☆
感想はいつでもお待ちしています!
宜しくお願い致します。

こちらでは2018年5月から書き始めて、2020年11月の時点で300作になりました。
これからもゆっくりですが、コツコツと書いていきたいと思います(*^^*)

2019年 プチコン新生活優秀賞受賞
2020年 DJ MARUKOME読めるカレー大賞特別賞受賞
2021年 ベルモニー縁コンテスト 入選

 

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