動機

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 若い男が逮捕された。

 やったこと自体は、それほどのことではない。迷惑防止条例に引っかかるような内容だ。
「どうしてあんな事をしたんだ」
 定年間近の警察官に聞かれても、男はふて腐れたように横を向いている。
「何か理由があるんだろう?」
 警察官には、この男と同じ年頃の息子がいた。放ってはおけなかった。
「ゆっくりでいいんだ。話してくれないか」
「へっ!」
 そんな警察官の気持ちを知らずに、男は言った。 
「理由なんか、ねえよ」
「そんなことはないだろう」
 何度聞いても、男は途中で話すのをやめてしまう。
「話してくれよ」
「うるっせーな! 理由なんかねぇよ!俺はとなりのかけがきに、たけがきにたけたけ……くそっ! もういい!」
 

隣の竹垣に竹立て掛けたのは、竹立て掛けたかったからで、竹立て掛けたのです。

 彼が真に己の心情を吐露したのは、それから半年後のことだった。
その他
公開:20/04/22 08:29

堀真潮

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