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長年住んでいたアパートの処分が決まり、立ち退く事となった。それに伴い僕も古本への勧告をした後、試しに一冊中身を確認した。
『ああ、  。あなたはどうして   なの?』
よし、相手の存在が消えている。これならすぐ誰もいなくなるだろう…。

予定通り、どの物語からもキャラに関する記述や全ての台詞が消えた。これで立ち退き完了、心置きなく処分が出来る。
活字として存在する彼等にとって、本の中は住居であり人生そのもの。その後、大半は経歴や名前を変えて新しい作品へ引っ越すのだ。
僕は紐で古本を纏めた。

新しい暮らしにも慣れてきた頃、近所の本屋で不思議な装飾の新刊を見かけた。『ロメオ』というタイトルの戯曲だった。

ごく稀に、経歴を変えずに新居へ登録するキャラがいる。だが、それでは物語に支障をきたすだろうし、様々な障害も待ち受けているはずだ。
部屋に着き袋から本を出すと、僕は震える指でページを捲った。
ファンタジー
公開:20/04/22 08:17
更新:20/04/22 11:10

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