ある惑星の午後

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「何も見なかったことにします」
そう告げて、狐の妻は出ていった。
私は何を見られたのだろう。そしてそれは家を出るほどのことだったのだろうか。わからない。身に覚えがない。しかし現実に妻は家を出た。私はその日から狩りに出ることをやめた。生活は乱れ、人間の女を家に連れこむようになった。
数年後。鴨撃ちの季節。
ふらりと戻った妻が、
「狩りだけは手伝います」
と、別居したまま私たちはまた狩りをするようになった。鴨撃ちは妻の父から習ったものだ。
森の向こうで妻が追いこむ鴨が大空を舞う。丘で待つ私はその群れを撃つ。三頭の人間が競うように駆けていき、撃ち落とした鴨を咥えて誇らしげに私のもとに戻った。
ハイウェイを独り歩いて帰る妻の背を見送りながら、
「ウェディングケーキなんていらないから」
そんな出逢った頃の妻の言葉を思い出す。初めての共同作業もこんな日の鴨撃ちだった。よく晴れた午後。地球が見える丘で。
公開:20/04/20 11:56

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