だげきとうし

　林道ツーリングの途中、川を見下ろす二階に宿を得た。蜩を聴きながら、軒に吊られた風鈴を指で突くと、カキーンという金属バットの打撃音。どこからか聞こえる高校野球中継だろう。
「今夜『だげきとうし』が通るよ」
　と仲居さんが教えてくれた。午後７時頃、この道を通過するという。鮎の甘露煮と山菜釜飯を食べ、風呂を出ると丁度よい刻限だった。
　山間に笛と鐘、胡弓が響き、川上から五列縦隊の集団が現れた。
　両手を胸の前から大きく振り上げ、上体を低く右に傾けながら左膝を高く上げ、右手を後方から素早く横に広げると同時に大きく一歩を踏み出すと素早く右手で身体の前方を薙いでは、右足を左足に揃える。一糸乱れぬ所作だ。
　全員が黒い帽子を目深に被り、草履に真っ白な野球のユニフォーム姿。その右胸にはマジックで「佃島」と書いてあった。
　――見事なサイドスローだ。
　僕はビールを飲むのも忘れて、その行列に見入っていた。