流動外科

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足に違和感を覚えるのは、決まってお風呂や漁の最中だ。
風呂上がりの膝はとても小さい。太ももやふくらはぎはそのままで、膝と肘だけが入れ替わったように。
肘の位置には膝がある。私はいけないものを見た気がして、すぐにジャージを着て布団に潜った。
私の仕事は海女だ。膝と肘が入れ替わっては泳ぎに影響が出る。眠れぬまま朝を迎え、恐る恐るジャージをめくると、膝も肘も元どおりになっていた。
数日後、私は海の中で足に違和感を覚えた。膝や肘に異常はなかったけれど、思わぬ変な声が出てしまい、喉に触れると立派な喉仏があった。ばかな。勇ましくても私は女だ。喉仏などあるはずがない。
私は大学病院を受診した。
「それ、くるぶしだね」
と嬉しそうに語る先生の専門は流動外科だという。私の骨は体内を流れていろんなポジションを試しているらしい。
「体が魚になろうとしてるのかな」
はしゃぐ先生の声が鼻からすーっと聞こえてくる。
公開:20/04/18 11:29

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