アンドロイドの記憶

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廃棄を待つアンドロイドが眠る倉庫での夜の見回り。
すぐそばで声ともつかない音が聞こえた。
「ボッチャ…」
アンドロイドの墓場で本物の幽霊に出会ったかのように驚いて事務所に駆け戻る。
「あれはなんですか?」
「あぁ、誰かが近づくとたまにしゃべるんだ」
先輩はまたかという感じで答えた。
「メモリセルは壊れているはずじゃ」
「確かに。でも、ああなっても忘れられない記憶があるんだろう」
そう言って説明をしてくれた。
「最初の家で召使いではなく人間の家族としての扱いを受けていたらしい」
そこでは子どもの成長を見守り、困難に立ち向かい、共に慈しみあったのであろう。
そのすべてが彼女にとって生きてきた証であった。
「でも今はこんな…」
「いや、仕方ないんだ」
先輩は少し伏し目がちになっていた。
「あいつは百年も前に製造された個体で、家族はもう誰も生きてはいないからな」

「ボッチャンアサデスヨ」
SF
公開:20/04/15 18:44
更新:20/04/20 01:04

新月ポン(Araduki Pon)( 奈良 )

SFが好きなのでやはり書いてしまいます。
アイロニカルでブラックなものが多いです。
好きな作家は伊藤計劃と三島由紀夫。あとは海外SF
 

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