10
8

 視界の端を凄まじい速度で横切る影がある。
「飛蚊症です」と眼科医。だが、この影は飛蚊症のそれとは全く違っていて、視界のすぐ外側に実体を感じさせるものだった。
「風きり音や…… そう、風だ。あなたは頬に風を感じますか?」
 カウンセラーが尋ねる。私は不貞腐れて首を横に振る。
「これらの影が次第に近づいて私の眼や…… そう、頚動脈を掻き切られたら私は――」
「大丈夫。鳥はここにはいません」
 こいつは判っていない。と思った。
 鳥影は、私が一人でいるときにだけ横切る。そして最近では、頻度も数も増してきていた。
「そう、まるで私が、天高く旋回する猛禽の中にいるように……」
 そうか。私は…… そうか。
 不要不急の外出を控えるよう言われた私は、最近はずっと部屋に一人で、視界の周囲をひっきりなしに旋回する鳥影に怯えている。
 きっと私はいずれこの部屋で、高所からの落下死体として発見されるだろう。
その他
公開:20/04/15 17:24
更新:20/04/15 17:25

新出既出20( 浜松市 )

新出既出です。
twitterアカウントでログインしておりましたが、2019年末から2020年年初まで、一時的に使えなくなったため、急遽アカウント登録をいたしました。過去作は削除してはおりませんので、トップページの検索窓で「新出既出」と検索していただければ幸いです。新出既出のほうもときおり確認したり、新作を挙げたりします。どちらも何卒よろしくお願いいたします。
自己紹介:「不思議」なことが好きです。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容