ある夜のハナシ。

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 その夜、君は言った。
 「別れて。ほかに好きな人ができたの」
 僕は、君だけを愛していたのに。君は他の奴を…。
 「待ってくれ。僕はまだ…」
 君の腕を掴む。
 「やめて!もう貴方を愛していないの!」
 振り解かれる僕の手。
 何かがプチンと切れる音がした。

 僕の手は紅く染まっていて、君は、床に倒れていた。
 “君はもう動かない”
 そう気づいたとき、僕の顔に、シニカルな笑みが浮かんでいた。
 
 





 午前三時。手がマグカップに触れ、ガシャンという音が、静寂を切り裂いた。床には冷めたコーヒーが海を作っている。

 僕は今日、人を殺めた。だけど、僕を捕らえる奴はいない。だって、すべて“ツクリバナシ”だから。さっきの話は、全て僕が書いた小説のなかの“ハナシ”。
 え?そこに血塗れの女が横たわっているじゃないかって?


 …ねえ、君が見ている僕は、“ホンモノ”かい?
ホラー
公開:20/04/15 14:10
更新:20/04/15 21:59
どこまでが“ホンモノ”?

すみれ( どこか。 )

書くこと、読むことが大好きな社会人3年生。
青空に浮かぶ白い雲のように、のんびり紡いでいます。
・プチコン「新生活」 優秀賞『また、ふたりで』
・ショートショートコンテスト「節目」 入賞『涯灯』



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