最終弁論

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私は豆腐が好きなんです。だから彼の手が必要でした。この世で一番おいしい豆腐を作る彼の手が。
裁判長は私の最終陳述を静かに聴いていた。
彼の作る豆腐は豆の旨みが絶品でした。雪解け水を含んだ豆は、大地を讃える叫びのような旨みを私の口の中で歌うのです。裁判長は豆の歌を聴いたことがありますか。豆が舌で踊るのを感じたことがありますか。
私はすばらしい豆腐を作る豆腐屋の彼を愛しました。彼も私を愛してくれました。いっときは。
冷たい水の中でやわらかく泳ぐ彼の手は夕焼けのように赤く染まって、おぼろ木のように美しい一辺の豆腐をすくってのせます。彼はそのおぼろ木から私のための豆腐を切り出してくれた。それを見ている時間は、それを食べる時間と同等の、いや、それ以上の幸せを私にくれました。彼の気持ちが私から離れたとき、その手だけは離さない。そう思ったのです。
切断の罪は重い。あとは私の弁護豆が最終弁論を行うだけだ。
公開:20/04/13 15:04
更新:20/04/13 16:28

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