結晶家族

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岸にあがると、父母兄が寛いでいた。おはようの四重奏。
雪が深い。膝まで埋まりながら歩いて、団欒に加わった。
弟はと訊ねると、母が首を振る。
「まだよ。来ないかもしれない」
声に棘がある。ひとつ前の冬は、姉が現れなかったのだ。胸を痛めた母の提案を思い出した。
「お揃いの器を並べて、その中に還りましょう、私たち」
けれど、それはやめようと父が言った。
「今まで、おなじ陸に集まれたことに感謝しよう。この先どこに居ても、なにと結びついても変わらない。愛しているよ」
兄弟全員が頷いて、結局は母も微笑んだ。

今年は、兄が拾ったトランプに興じた。昼も夜も遊ぶうち、最初の雪解けの音がした。滴りはじめた手を繋ぎ、四人で海中へと歩み出す。
父と母の輪郭は、すぐに溶けてみえなくなった。
身体も思考も液化する寸前、最後にみたのは、ゆれる兄の掌だ。
またねの二重奏。
私はきっと次の冬も、この家族がいる岸にあがる。
ファンタジー
公開:20/04/12 19:02
更新:20/04/16 08:58

rantan

読んでくださる方の心の隅に
すこしでも灯れたら幸せです。
よろしくお願いいたします(*´ー`*)

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