水中眼鏡のアザラシ

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江の島からほど近い、湘南の浜辺を散歩していたときの出来事だ。
海岸の方から寄せる波とともに、俺に話しかけてくる女の子の声がした。
――ここはどこでしょう。故郷の北極海に辿り着けたのかな?
声が聞こえる方へ近寄ってみると、つぶらな瞳に水中眼鏡を掛け、愛くるしいしぐさで寝転ぶアザラシの子供がいた。
「ここは日本の相模湾です。北極海はもっともっと北の方角です」
俺はアザラシの子供に促されるように返答した。
どうもテレパシーが使える不思議なアザラシのようだ。
――親切に教えてくれてありがとう。私について一つだけ質問してもいいわよ。
「なぜ水中眼鏡を掛けているのですか?」
――見たものの未来が映るからよ。
海に潜るための水中眼鏡ではなかったようだ。
「私の未来はどうなっていますか?」
――質問は一つだけと言ったでしょ。未来は自分で切り拓くものよ。
次の瞬間、既にアザラシは海の彼方へと消え去っていた。
ファンタジー
公開:20/04/11 15:55
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SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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