匂い消しガム

　5分間噛み続ければ完全に口臭が消せる、という売り文句のガムを発明した。その偉業達成に反し、開発者は頭を抱えていた。
　鼻から入ってくる香りすら消し去ってしまうせいで、嗅覚・味覚が麻痺してしまうという重大な欠陥を抱えていたのだ。
　開発者は助手に相談した。
「いくら何でも６時間以上味を感じられないのは大きな難点だ。食は人間の三大欲求の一つ。それを犠牲にしてまで口臭を消したい人がどれだけいるものか……」
　助手はしばらく考え込み、パチンと指を鳴らす。
「逆に味覚を消したい人に売ればいいのでは？」
「なるほど！　さっそく試そう」
　開発者は匂い消しガムの商品名を『嫌いな食べ物の味を感じずに食べられる味覚消しガム』に変え、『しかも口臭まで消せる！』と売り文句をつけた。
　結果、味覚消しガムは爆発的ヒット。特に、極端に好き嫌いの激しい子供の親や、苦い薬を飲まねばならない持病持ちの方々に重宝された。