万年桜

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万年桜はこの町の貴重な観光資源だ。茹だるような夏の日も、枯れ葉舞う秋の日も、雪が降りしきる冬の日も、変わらず花を咲かせる。
そんな不思議な桜は、僕の家の庭にあった。

「桜ってのは春にほんの一瞬咲くからいいんだよ。刹那的っていうかねぇ」
じいちゃんはよく、日本酒を舐めながら笑って言った。
「こんなに一生懸命花を咲かせて生きてたって、つかれちまうだろうになぁ」
そんなこと言いながら、じいちゃんは万年桜を誰よりも大切にしていた。
四季を通して定期的に一般公開しては、遠方から来た観光客と花見酒を楽しむ。常連さんは地元の酒を持ち込んでは、じいさんをたいそう喜ばせた。
「俺はこの桜のおかげで毎日お祭り気分だなぁ」


万年桜が散った。
じいさんが死んだ朝のことだった。
その後も時折、観光客は訪れた。桜は散ってしまったと伝えると、「まだ一緒に酒を飲みたかったなぁ」と言い、地酒を供えていくのだった。
ファンタジー
公開:20/04/11 21:00
更新:20/05/01 20:10

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