目覚め

　目覚めた時、私は多分、私自身に「おはよう」と言ったと思う。もちろん声には出さない。だが朝起きれば「おはよう」と言うのは自然なことだし、幼い頃から「おはよう」を叩き込まれている私たちなのだから、パブロフの犬のように、目覚めれば必ず私たちは「おはよう」と言っているに決まっている。
　「昨夜」が睡眠という断絶の距離を私に追いつき、私が「今日」へ追い立てられるまでの間にある、いつもと同じ目覚め。だから私は今朝もとてもニュートラルに「おはよう」と言ったはずだ。
　だが、私の「おはよう」が就寝前の「おやすみ」と同様に通用する世界が継続していると保証してくれるものなど何も無かった。いつもと同じ「目覚め」なのだから「睡眠という断絶」の間も同じ世界が継続していたはずだ、と思い込んでいただけだった。
　私は、私のこの「おはよう」だけを、私自身の拠り所にして未知へ踏み出す勇気を持てない。
　だから二度寝する。