4
10

結局、私は人生でただの一枚も傑作を描くことは出来なかった。
狭い部屋に無造作に置かれた絵は、誰の心にも響かない駄作ばかり。画家を志して費やした私の人生そのものが駄作だった。
生きた証が欲しい。
酒に溺れる毎日の中で、私はそんなことばかり考えていた。
ある日、珍しく客人があった。友人が病にかかり生きる希望を失っている。つたの葉が全て落ちれば自分も死ぬと言っている。どうか助けて欲しいと、その女の子は言った。
つまり、私がつたの葉を描くことで、その男の子を助けられるということか。
なんと素晴らしい提案だ。
「わかった。その男の子を助けるためなら、私はこの命を捧げてもかまわない」
「本当ですか! ありがとうございます!」
全身に力が漲った。
「では早速、絵に取り掛かるとしよう」
「いえ、そんなことしなくていいです」
「え?」
「欲しいのは、あなたの心臓です。臓器です」

その命の捧げ方は予想外…。
その他
公開:20/04/10 11:48

のりてるぴか( ちばけん )

月の音色リスナーです。
ようやく300作に到達しました。ここまで続けられたのは、田丸先生と、大原さやかさんと、ここで出会えた皆さんのおかげです。月の文学館は通算24回採用。これからも楽しいお話を作っていきます。皆さんよろしくお願いします。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容