線路は家族よいつまでも

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機関車症候群。妻の病名だ。
失われた記憶のフィルムが頭から抜け出る。連なったフィルムが線路に似ている事からこの名前がついたらしい。
長い髪の様に、長い影の様に、線路は妻から伸びていく。私と妻を繋ぐ思い出がどんどん無くなっていく。私にとっては妻が世界の全てなのに。
妻をつれて散歩に出た。病院の中庭には、黄緑から黄色へ変わる銀杏の木が空を包み込むように茂っている。
「ここにいたんだ」
声に振り返ると、息子と娘が笑顔で立っていた。お見舞いに来てくれたのだ。
「すまんな。お前たちにも家庭があるのに」
二人は妻の隣に寄り添った。刹那、妻が微笑んだ気がした。
線路を背にした私達四人が、妻と私が初めて観た映画の名場面に似ていたからだとは考え過ぎだろうか。

何も変わらない。

記憶が無くなっても、私達が家族である事をこの線路が足跡のように教えてくれている。
だから愛する人よ、いつまでも君のそばにいよう。
青春
公開:20/04/10 02:15
更新:20/05/02 01:25

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