尻切れアクター

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「カァーット!」

もう42回目のやり直し。大好きだったベストセラー作家が、まさかこんなにも小難しい人だったなんて。

「うーん、違うんだよなあ。いっそ、この場面ごとナシにするか。よし、ちょっと休憩」

休んでる暇なんかあるもんか。俺は先生の頭の中でじっと考える。書き上がったこれまでの原稿を反芻しつつ、自分の役のとりうる言動パターンを一つずつ精査する。

ラブストーリーなんだ。先生お得意のハッピーエンドに決まってる。この一瞬を境に、数々のすれ違いが噛み合っていくはずなのに…。ヒロイン役も頭を抱えている。ありとあらゆる可能性は試した。残るのは?

「休憩おわり!もう一度、いく…ぞ…」

先生は机の上に倒れ込んだ。そして…この未完の遺作は、出版されるやいなや売れに売れた。

俺と彼女は演じ続ける。ページを閉じたあと、読者が浸る余韻の中で。でも、何回やっても聞こえるんだ。

「カーットォー!」
ファンタジー
公開:20/05/25 11:28

糸太

400字って面白いですね。もっと上手く詰め込めるよう、日々精進しております。

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