はるばる先に

私は兄が大好きだった。優しくて強くて格好いい兄。
その兄が交通事故で亡くなった。
信じられなかった。だから母に「お兄ちゃんにお別れしなさい」と言われても私は出来なかった。
棺桶の中身が兄なわけない。何かの間違いだ。私はただただ泣いた。
その日、私は兄の霊に憑りつかれていた。

血まみれの兄の霊は気が付くと私の後ろにいる。私の袖を引っ張り、何かを訴えている。
大好きだった兄が怖くなった。大嫌いになった。
そんな兄から逃げる為、私は小学校を出ると全力で走り出し…その体を兄に掴まれた。
直後、目の前を猛スピードの車が走り抜ける。
『よ か つ た』
兄は微笑んでフッと消えた。

私が事故に遭いかけたと聞いて両親は顔を青くした。
「天国にいるお兄ちゃんが守ってくれたのね」って母は言ったけど兄はそんなはるばる先にいない。きっと今も近くで私を見守っている。
兄は私の守護霊になってくれているんだと思う。