落ちない男

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営業のエースは僕じゃない。同期の山口だよ。
僕がミスをしないのには理由がある。幼い頃から慎重な性格だったからか、いつしか少し先の未来の落とし穴が見えるようになったんだ。
ほら、順調な人でも思わぬ落とし穴に落ちて躓いてしまうことってあるだろ?
僕にはそれが見える。そして、見えた時には、僕の代わりに誰かが穴に落ちてくれる。僕はそれを見て学んで、同じ失敗をしないように気をつけているからミスをしないんだ。
しかも、僕の知らない間に、僕が未来に起こす予定だった失敗を僕の周りの誰かが肩代わりしている時もあるみたいなんだ。
でも君には僕のせいで穴に落ちてほしくない。君を不幸になんてさせない。君は僕が絶対に守る。
君が背負っている父親の借金も、全額僕が返すから心配しないで。
だから、結婚しよう。


僕が彼女にプロポーズした翌日、山口が会社の金を横領して逮捕された。

そして彼女は、僕の前から姿を消した。
ファンタジー
公開:20/05/23 23:56
超ショートショート講座 お題:便利な落とし穴 息子が作ったお題で創作。

のりてるぴか( ちばけん )

月の音色リスナーです。
ようやく300作に到達しました。ここまで続けられたのは、田丸先生と、大原さやかさんと、ここで出会えた皆さんのおかげです。月の文学館は通算24回採用。これからも楽しいお話を作っていきます。皆さんよろしくお願いします。

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