ぼくの金魚くん

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「ママ忙しいから、今年の夏もきっとどこにも行けないなあ」
ぼくのためいきに金魚くんが答える。
「どこへ行きたいんだい?」
「海に行きたい!」
「行けるさ、海でも世界の果てにでも!」
金魚くんは水槽を飛び出すとぐんぐん大きくなった。
「さあ乗って!」金魚くんの背に乗るとぼく達は窓から飛び出した。

「海が見えてきた!」
ぼく達はざぶんと海の中に入った。夜で真っ暗なはずなのに色んな物が見えた。魚、色とりどりのサンゴ、イソギンチャク、ヒトデ。海の中ってスゴくキレイ!
とうとうぼく達は疲れて砂浜に寝っ転がった。海の向こうがぼんやりと明るくなり始めていた。

「ただいま。ねていたの?」
ママがスーツ姿でぼくの頭をなでた。まだ外は暗く、夜だった。ぼくはガバッと起き上がると水槽の中を見た。金魚くんはすました顔で泳いでいる。ぼくの体から潮の香りがした。
金魚くんはぼくと目が合うと、ぱちんとウインクをした。
その他
公開:20/05/24 21:03

深月凛音( 埼玉県 )

みづき りんねと読みます。
創作が大好きな主婦です。ショートショート小説を書くのがとても楽しくて好き。色々なジャンルの作品を書いていきたいなと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。
猫ショートショート入選『ミルク』
渋谷ショートショートコンテスト優秀賞『ハチ公、旅に出る』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[節目]入賞『私の母は晴れ女』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[縁]ベルモニー賞『縁屋―ゆかりや―』

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