その日の夕立の理由を誰も知らない。

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空虚感に苛まれて、ベッドから投げ出した足元にふと目をやると、つま先が透けてペディキュアの赤は失くなりつつあった。つま先から「無」に蝕まれてあと数時間もすれば私は空気になるに違いない。

私の右腕に咲いた雨降り花が開いた窓から吹く風にゆれた。花が咲いたのは1週間ほど前のこと。鐘のような提灯のようなそれは可憐で私には似つかわしくない気がした。でも花が私を選んでくれたことが嬉しかった。世間では奇病とされて恐れられたが、全く苦ではない。喜びに満ちていたのに、あっという間だったな。

花は私を養分とするため、最終的に私が消えることになっていた。透過が進めばもう止められない。私が消えたら残る花も次第に枯れる。枯れたら雨を降らすらしい。

ふらつきながら姿見の前に腰をおろす。どうせなら、とカメラを手に自撮りした。その右手が消えてカメラがゴトリと床に落ちた。

その日の夕立の理由を誰も知らない。
その他
公開:20/05/24 18:33
更新:20/05/24 18:37
ホタルブクロからのイメージ

夜野 るこ

  夜野 るこ と申します。
(よるの)

皆さんの心に残るようなお話を書くことが目標です。よろしくお願いします。

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