ワインレター

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Yという、一文字が書かれた葉書が、家に届いた。その手書きの美文字は、差出人・女性の育ちのよさを感じさせた。

ちなみにボクの職場は、がさつなガテン系。品のよさに惹かれ、葉書をよく見た。すると、Yの文字のVの所が「私はまだ、あなたの思い出ですか?」という、小さな文字でできていた。差出人不明だが、きっと、親しかった誰かだ。今、ボクには恋人がいない。ぜひ思い出したい。

が、文字だけでは難しすぎる。
「あかん」
すると、なんと文字が動き出した。ワイングラスの形をしたYのVの所に「あかん」という文字が注がれる。そして「あか」だけが溶け、おいしそうな香りをさせる液体になり、葉書から溢れ、こぼれた。
それを咄嗟に口に入れた。口の中に広がる、芳醇な味わい。
思い出した。これは十年前、小説の授賞式で飲んだ、自分の財布では飲めないワイン。

ボクは味を楽しんだ。次は、味をしめたい。
ペンを再び手にした。
その他
公開:20/05/24 18:28
更新:20/05/24 20:56

久保田 人月

よろしくお願いします。
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