そろそろ上がらんと

0
2

「コーチ、まだ決まんないの?」
 駐車場に留めた車から一歩脚を踏み出した途端、背後からチアリーダーのアリスに声を掛けられた。
「さあ。さすがにそろそろ決めてくれんと練習にも身が入らんわ」
 そう言うとユウタは助手席の荷物を引き寄せる。

 大学を出て地元の野々宮スパークスというプロバスケチームに入って6年が経った。同じ年にチアに加わったアリスとは言わば同期入社だ。
「今年はそろそろ上がらんとあかんしなあ」
 スパークスは悪いチームではないのだが、万年2部リーグの上位が定位置。球団創設以来1部に昇格したことはない。
 一瞬、アリスが足元に視線を落とす。気になって「どうかした?」と訊こうとした時には、くるりと背を向けて先に体育館に向かって行ってしまっていた。

 ロッカールームで着替えて練習場に出ると、コート脇から見知らぬ人物がこっちを睨んでいた。
 新任のコーチ・神戸(かんべ)だった。
青春
公開:20/05/24 17:00
アリウープをねらえ! バスケットボール バスケット スポーツ バスケット スポーツ

コイッチ( 兵庫県、大阪府 )

DON'T WORRY, BABY!
そろそろ定年退職後の人生設計が気になり始めた55歳。コーヒーとバスケ観戦、ランニング、芝生の育成が趣味。司馬遼太郎と村上春樹の好きな作品を何度も何度も読み返しています。関西の放送局に勤務。
いまは地方都市の弱小バスケットボール・チームを舞台にしたショート・ショートを「アリウープをねらえ!」という連作にして書いています。半年ほど前にメモってあった小説のプロットがベースです。ショート・ショートとしては邪道なのかも知れませんが、皆さんからのいいね!やフォロー、コメントはたいへん励みになるので、ぜひとも忌憚のないご意見をお聞かせ下さい。
よろしくお願いします。

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容