冷たい水がない世界

そこは、冷たい水がない世界だ。

人の体の６割は水分でつくられている。冷たい水がない世界とはつまり、冷たい性格の人がいない世界だ。

その世界の人はみな、温かい。他人への思いやり、親切心にあふれている。

ただ、だから争いが皆無で平和なのかというと、そうでもないらしい。

温かいのだけれど自分に甘い性格の人がいた。周りから親切にされると、つい甘えてしまう。甘えっぱなしな姿を見た別の人はやっぱり温かく、でも何事にも黙っていられない人だった。

「君、このままじゃダメになるぞ」

そう注意すると、甘える人はイラついた。

「うぜえなあ」

ささいな口論は次第にエスカレートし、悲しい惨事を招いた。

諍いの場に冷たい人がいたら、どうなっていただろう。冷たい性格にも良さがある。冷めている分、どんな時も冷静で客観的に物事を収められる。

人には一長一短がある。その組み合わせで世界は成り立っている。