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私は幼い頃から新鮮さを失うことが怖かった。鮮度を失っていく姿を目にするのがつらくて、大切なものほど遠ざけることを覚えた。
新玉ねぎを放置してただの玉ねぎにしたり、シャワーを浴びた恋人をホテルに放置して帰った。
私は放置の坂をどこまでもどこまでも転げ落ちて、今は新しい夫をベランダに放置している。
新しいものはいつか必ず古くなる。私はそれが悲しい。赤ちゃんだった私。新入生だった私。新社会人、新しい恋、新婚生活、初めての逮捕、初公判、刑務所の日々、新天地での社会復帰。今はその全てが古びてしまった。
「生きるって古くなることね」
私の言葉を今の夫は否定した。
「新しい日々に出合うことだろ」
私は彼に恋をした。再婚や再犯はしたくなかったけれど、彼に押されて一緒になった。私は鮮度をキープしたくてやはり彼を放置した。
あれから5年。私はベランダの夫たちをつまんで、浴槽の湯に浸した。あぁ。蘇る新鮮な笑顔。
公開:20/05/22 11:43
更新:20/05/22 12:23

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