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その日私は、村はずれにある精油工場を見学した後、旅館に一泊することにした。村にはむせかえるほどの梔子が香っていた。精油入りのガラス瓶がどの家の軒にも下がっている。さすがアロマの村だ。
宿の女将さんが言う。
「香りが村を護ってくれるもんで。だで他の匂いは厳禁だで。あと九時以降は窓開ちゃいかんでね。きまりだで」
私は自分の香水がひどく下品なものに感じられた。
その夜は暑かった。軒のガラス瓶がキチキチと揺れ、寝付かれなかった私は、少し窓を開けた。
軒の精油瓶に、透き通った羽虫が群がっていた。それはとても小さな蝶で、自らの身体の何百倍もある口吻で精油を吸っていた。口吻が精油に届かない蝶は、精油を吸っている蝶に口吻を突き刺していた。ギトギトした翅の輝きと、濃い梔子の臭い……
その後のことは覚えていない。私はそれからしばらく、嗅覚と視覚を失っていた。これは脳脊髄液の減少による症状だそうだ。
宿の女将さんが言う。
「香りが村を護ってくれるもんで。だで他の匂いは厳禁だで。あと九時以降は窓開ちゃいかんでね。きまりだで」
私は自分の香水がひどく下品なものに感じられた。
その夜は暑かった。軒のガラス瓶がキチキチと揺れ、寝付かれなかった私は、少し窓を開けた。
軒の精油瓶に、透き通った羽虫が群がっていた。それはとても小さな蝶で、自らの身体の何百倍もある口吻で精油を吸っていた。口吻が精油に届かない蝶は、精油を吸っている蝶に口吻を突き刺していた。ギトギトした翅の輝きと、濃い梔子の臭い……
その後のことは覚えていない。私はそれからしばらく、嗅覚と視覚を失っていた。これは脳脊髄液の減少による症状だそうだ。
ホラー
公開:20/05/22 09:51
更新:20/05/22 10:07
更新:20/05/22 10:07
新出既出です。
twitterアカウントでログインしておりましたが、2019年末から2020年年初まで、一時的に使えなくなったため、急遽アカウント登録をいたしました。過去作は削除してはおりませんので、トップページの検索窓で「新出既出」と検索していただければ幸いです。新出既出のほうもときおり確認したり、新作を挙げたりします。どちらも何卒よろしくお願いいたします。
自己紹介:「不思議」なことが好きです。
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