煙草

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「煙草? そりゃあお前、ちょっと憧れるだろ?」
 私が高校生の時、彼はそう言って笑った。
 ドラマで見るような、煙草を吸うそれっぽい仕草を私の前でしてみせて、そして何故か照れくさそうに口に加えたお菓子をがりがりと噛み砕いていた。
「煙草ってさ、覚悟が決まるんだよ」
 大学生になった頃、煙草を吸い始めていた彼は私にそう言った。
 私は嫌煙家ではなかったので気にしなかったが、彼が緊張した時によく煙草を吸っていたのは知っていた。
 数年後、煙草に対する悪印象が強まる世間で喫煙家の肩身は狭くなった。彼は周りをよく気にするので、彼が煙草を吸う姿は見られなくなった。
 だから、私が煙草を吸い始めたとき、彼はとても驚いた。
 何故と問う彼に、私は彼の答えを真似た。
「覚悟が決まっただけだよ」
 意味が伝わったかは分からない。
 ただ、早朝にベランダから漂う煙が一つから二つに変わったのは確かな事実だった。
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公開:20/05/21 22:43

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