ネズミとチーズの不文律

「ネズミはなぜチーズを食べるのか？」
　穴が開いた、三角形の、オレンジ色の身と白い縁側のついたチーズが目の前に突き出される。
「いきなりなんです？いつもの癇癪ですか？」
「私が提示した問に対してのあなたの解を聞いているの。これは物語に投げかけられたひとつのミステリだわ」
「大げさな。あの食べたような穴は作る時の気泡が抜けた跡で、別にネズミが食べたわけじゃないとか。大抵は某有名アニメの影響ではないですか？実際ネズミがチーズ食べているところ見たことないですしね」
　頬に溜息が吹き付けた。
「分かってないわね。読者が欲しいのは事実じゃなくて、驚きと納得なのよ。突拍子もない理由であったとしても、頷けるだけの筆力を作者に求めているのだわ。これはエンターテイメントなの。誰が雑学や蘊蓄なんて聞きがるのよ」
「なら、何だって言うんです？」
「ネズミがチーズを食べるのは、誰かにその理由を考えてもらうためよ」