迷宮器官

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目覚めるとあたしは赤い絨毯の敷かれた通路に立っていた。それは先が見えない程ずっと続いていた。両脇の壁には乱数的な間隔で扉が並んでいて、天井にも床にもあった。何故か真っ直ぐ進んでも意味が無いという予感がして、あたしはすぐ足元にある茶色い扉の、真鍮製のノブを捻った。
蝶番が思っていたのと逆で、扉はそのまま重力に従い床下へと倒れ、あたしもそれと一緒に転げ落ちた。これから耐えなければいけない落下の恐怖に固く目を瞑る。でもいつまで経っても重力はあたしを引き摺り下ろしはしなかった。恐る恐る開けた目の前にさっきと寸分違わぬ同じ風景。先の見えない通路と無数の扉─。
どれほど時が経ったのだろう。幾つも扉を開け通路を行きつ戻りつ、あたしは漸く明るい場所へ出た。そこは水の中で、真っ赤で美しい尾鰭の魚がこっちをじっと見ていた。その姿はまるでフラメンコの踊り子のようで、あたしはふと、生まれ変わる前の事を思い出した。
その他
公開:20/05/22 17:16
更新:20/05/22 17:48
シュール

蛇野鮫弌( ビリヤニがたべたい )

蛇野鮫弌 (はみの こういち)

一日一作を目標に。あくまで目標……

道草食いつつ逝きましょか。

Twitter @haminokouichi

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