うかつな男のはなし

0
2

ある日、男がでかけようと玄関でもたもたと靴紐を結んでいると、いかないでと背中に幼子がかぶさってきた。

いとしさに頬ゆるむが、用があると子をいさめ、再び靴にむかうと、背中の重みがぐいぐい増して、裏山の巨石どころか山ひとつぶん背負うほどになり、骨がポキポキ折れる音まで聞こえて、なんとしたことかと驚愕しつつ心中では約束に遅れる旨先方に伝えることを算段するも、どうにも相手の顔も名前も用件も思い出せず、ならばこれと遊んでやればよかったと思い返すが、そもそも我には子などいないではないかと膝をうとうとしたときには、背の重みは地球ほどとなり、ついには身体はたいらになり地の土と化し、背にいた者の正体も知らぬまま、いまでは男だったた地の上をひと共が歩きゆきすぎ町ができてほろびて獣が糞をしていくが、男はいっこう気にならず、片足だけでも靴ひもを結びたかったと今なお悔やんでいる、そうな。
その他
公開:20/05/21 20:47
更新:20/05/21 21:15

kei

再開しました。今までコメントをしてくださった方々、お返事できず失礼しました。
これからもよろしくお願いします。

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容