記憶販売

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医師から施術についての説明を一通り受けた後も、ライカの不安はすっかり消えはしなかった。母は老いで倒れるにはまだあまりにも若かった。彼女を産んだおばあちゃんだってまだぴんぴんしている。父が事故で亡くなり、女手ひとつで家庭を切り盛りすることで疲れ果て病に伏してしまった母を救う方法が、これしかないという事を重々理解していてもだ。

我が家にはお金が無い。貧困層が手っ取り早く身銭を稼ぐ方法といえばひとつ。“記憶を売ること”
富裕層が娯楽の一環として他人の記憶を摂取するというのが最近の流行だった。大手亜空間移動企業である“ビューイング社”の御曹司は他人の記憶を用いベストセラー作家となった。ちなみに記憶に著作権などはない。

ライカは施術を待つ間、ずっと家族とのこれまでを想った。母さん、おばあちゃん、妹のホルガ……。良い時もあったが今はそうじゃない。医者からは涙を流さないよう言い渡されていた。
SF
公開:20/05/19 20:53

蛇野鮫弌( ビリヤニがたべたい )

蛇野鮫弌 (はみの こういち)

一日一作を目標に。あくまで目標……

道草食いつつ逝きましょか。

Twitter @haminokouichi

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