意外と優しい洋服

12
9

就職が決まった。気持ちが引き締まる。
身なりを整え、しっかりと社会人らしくしなければと勇気をだした。
スーツを買いにきた。

「どんな感じのものをお探しですか?」
女性店員は言った。
「1万円以内でなんかありますか?」
青年は言った。
うつむき加減で声も小さく、そう言った。
彼の姿は見るからにコンプレックスの塊だった。
足は短く、20代とは思えない、お腹の出具合い。 
いかにも、モテない典型的男だ。
「そうですね。包容力のありそうなお客様にはこちらのものが良くお似合いになられると思うのですが。」
悪い気はしなかった。
自分を卑下し、恥ずかしく思っていた。
自分の体型をこんなにもカバーしてくれる店員さんの一言が嬉しかった。

値段はもう、どうでも良かった。 
自分を価値あるものとして、扱ってくれた店員さんの人柄。
倍の値段のスーツを買った。
あの店員さんにはそれだけの価値があった。
その他
公開:20/05/19 19:14

ポエマータカノ( 横浜 )

愛を言葉で伝える事が使命だと感じている。
42歳のおじさんです。
カラオケ、料理、笑わすこと、読書、哲学、物思いにふけること大好きです。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容