家具の仕業

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仕事に追われ、仕事のことばかり考えていた時のこと。
散らかっていたはずの室内が、ある日とつぜん綺麗に整頓されていた。皿は棚にしまわれ、衣服もタンスに戻っている。
すぐさま母に電話した。

「勝手に来るなって言ってるだろ」
「行ってないよ」
母は笑っていた。
「圭太の家具たちが、圭太のために頑張ってくれたのよ」
「…もういい」
俺は腹を立てて電話を切った。

それからしばらくして、深夜に帰宅した時。皿で一杯だったはずのシンクが綺麗になっていた。
ーーまたか。
苛立ちを隠せずに、リビングの扉を押し開く。

机の上にケーキが置かれているのが目に入った。
「25歳おめでとう」
紙に書かれた文字を読み、唖然とする。
忘れていた。そういえば今日、俺の誕生日だった。
ソファに座り、ケーキを頬張る。
涙が溢れた。
甘くないクリーム。パサついたスポンジ。
その全てに、懐かしさが詰まっていた。
その他
公開:20/05/20 18:28

早見並並( 神奈川県 )

物語創作に興味があります。

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