月の音色

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雷の音に心臓が跳ねて、ベッドから飛び起きた。カーテンの外はまだ真っ暗だった。
逃げるようにウォークインクローゼットに飛び込むと、二歩ほど入ったところで身体がふわっと浮き上がった。驚いているうちに身体はゆっくりと地面へ戻り、一歩踏み出すとまたふわりと浮いた。見回すと、周りにあるはずの壁はなく、遠くに地球が見えた。
月だ。なんとなくそうわかった。
写真で見たような寒い色にふるりと肩が揺れる。すると月は足の下からゆっくりと、淡い金糸雀色へ変わっていった。
クレーターには水が溜まっていた。
覗き込むと、真ん中から波紋が広がる。その波紋がクレーターの岸へ寄せるたび、水面はプリズムみたいにきらめいた。
波紋へ耳を寄せれば、初めて聴くような、けれど懐かしいような、優しい音が湧き出ていた。

いつのまに眠っていたのか、目を開けると、そこはいつものクローゼットだった。
雷はやみ、空には丸い月が浮かんでいた。
その他
公開:20/05/19 00:45
月の音色 6周年の捧げ物

ゆた

高野ユタというものでもあります。
幻想あたたか系、シュール系を書くのが好きです。

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